iPhoneは儲からない?

appstore7

いまだに「iPhoneは儲からない!」と断言している人がいるようですので、改めて思うところを書いてみましょう。少し長文になりますが、よろしくお付き合いください。

2月17日に東京神田で開催されたOGC(Online Game & Community service conference)において、またも「iPhoneは儲からない!」という指摘があったようです。

4Gamer.net ― [OGC 2010]iPhoneは儲からない! じゃあどうすればいいんだ? 新清士氏が語る次世代アプリの目指すべきもの

さて,冒頭で示されたiPhoneコンテンツ市場の現状はといえば,
儲からない
の一言に集約される。

その原因はと言えば、AppStoreのアプリ単価が非常に廉価であることがあげられています。

いいかげん反論するのも馬鹿らしいのですが、今までのプラットフォームとは比較にならないほどアプリ本数が多いのですから、単純平均で出せば低くなるのは自明でしょう。アプリ価格は横並びで決めてるんですかと言いたくもなりますが、もう一度AppStoreをよく見てみましょう。

AppStoreで何が売れているのか?

iPhone/iPod touchユーザーならよく御存知の通り、AppStoreの”トップセールス”の上位には単価が数千円のソフトがゴロゴロいます。見れない方のために、2010年2月18日時点のベスト20を抜き出してみましょう。

  1. Top 100s by Year 230円
  2. 太鼓の達人-人気曲ぱっく 600円 ナムコバンダイ
  3. ウィズダム英和・和英辞典 2,800円 物書堂
  4. Jibbigo音声翻訳 -日英 3,200円
  5. GTレーシング:モーターアカデミー 800円 Gameloft
  6. 大辞林 2,500円 物書堂
  7. TokyoArtBeat 230円
  8. ぷよぷよフィーバーTOUCH 450円 SEGA
  9. 開運家相風水 115円
  10. さいすけ 1,200円
  11. デジタル大辞泉 2,000円 小学館
  12. うたかたのそら 350円
  13. Refills 1,200円
  14. mixia 350円
  15. Plants vs. Zonbies 350円 Popcap Games
  16. WorldCard Mobile(名刺認識管理) 2,300円
  17. HYPER SPORTS(JP) 230円 コナミ
  18. Qik VideoCamera 230円
  19. サクっと名刺交換 115円
  20. SpeedText 230円

この後にも、スペースインベーダーインフィニティジーン(600円、タイトー)やアイテムジャグラーEX(600円、Kita Denshi)などがまだまだ続くのですがこれくらいにしておきます。※長々と書いている間にランキングが一部入れ替わっているものがあるようです。

このAppStoreにおけるトップセールス上位20本の単純平均は974円です。このうちゲームだけに限ってみても、最安は230円のHYPER SPORTS1本だけです。どこが115円に収斂しているのか教えて欲しいものです。AppStoreに並んでいる単純な平均単価を出した上で、「AppStoreでは安いコンテンツしか売れない」、「iPhone/iPod touchユーザーは無料のものを求めている」などと結論づけるのは浅はかすぎると言うことです。

なお前掲記事では

アプリ価格の相場は下がり,平均単価は3.12ドルにまで下落している。ゲームに限っていえば,平均1.35ドルという下落ぶりだ。

と騒ぎ立てていますが、辞書だけではなくゲームもAppStoreの”平均単価”からすれば高い部類のものがトップセールスにランクインしているところをきちんと注目すべきでしょう。

さらに、古くから販売されている「さいすけ」や「ウィズダム」、「大辞林」などと並んで、最近のタイトルである「太鼓の達人」、「GTレーシング」、「HYPER SPORTS」などもしっかりと上位に食い込んでいることが確認できます。特にGTレーシングなどは、すでに飽和状態であるかに思えた3Dレーシングゲームジャンルに最後発として登場したにも関わらず人気を集めていることについて十分留意すべきです。

また、ゲームデベロッパーに注目してみても、国内・海外含め各社が1本ずつ入っているところをみると、同じ講演を取り上げた別メディアの記事で出てくる

「パッケージ市場崩壊、iPhoneアプリももうからない」 ゲームメーカーが生き残るには (1/3) - ITmedia Gamez

とにかく大量のコンテンツを用意し、いかに自分のところに引き付けて集中させるかが重要になっている

という指摘が誤りであることもわかります。

ちなみにベスト50まで広げると、ただ1社Gameloftだけが2タイトルを送り込んでいるようです。「大量のコンテンツを用意」している代表がこのGameloft社ではないかと思いますが、そんな同社でもトップセールスに送り込むのは至難の業なのです。また、大量に出したからと言って、ユーザーの購買対象を自社コンテンツに引きつけ、また集中させうるかどうかなど全く保証されていないこともわかります。

人気コンテンツはきっちり分散しており、しかもどのタイトルも購入して間違いはないといえるほど質の高いものが揃っています。さらに息の長いタイトルにおいては、きっちりとメンテナンスを行いアップデートを繰り返しているコンテンツが多いのにも気付かされます。

結局、何度も指摘しているようにユーザーは自分の目的にあった質の高いアプリにはお金(対価)を払っている」のです。ここを見失わないようにしたいものです。

AppStoreでの開発コスト

引き続いて上記ITmedia Gamezから引用すると、

「iPhoneは、ゲームの価格と価値のバランス、相場観をひっくり返してしまった。数百円のゲームに慣れたiPhoneアプリユーザーは、7000円のゲームは高いと思うだろう。このギャップはとてもじゃないが埋められない」

ギャップに「ゲーム会社が困っている」という。従来のパッケージゲームは億単位の予算と年単位の時間をかけて開発してきたが、「iPhoneアプリは1本当たり100万円、200万円のコストで作らなくてはならない」。パッケージゲーム開発のコスト構造でiPhoneをアプリ開発して利益を出すのは「無理」なのだ

「無理」とも断言しています。本当でしょうか。

この議論の前提として、「販売対象の母数を、今までゲームを買ってくれたユーザー数をとする」という条件が抜け落ちています。なぜこの前提を疑おうとしないのでしょうか? 自分がこの前提を覆すゲームを作れないと言う事を認められないからではないのでしょうか?

任天堂の宮本茂氏も先日の講演で次のように語っています。

文化庁メディア芸術祭、功労賞を受賞した宮本茂氏がシンポジウムに参加 - GAME Watch

「面白いのは自分たちだけではないかと思った。ゲームを遊ぶ人を前提にゲームを作っていた」と言い、ここで考え方を変えることにした。

当初、ゲーマーからは散々な評価を受けた「NEWスーパーマリオブラザーズ・Wii」が史上最速、発売から約8週間で1千万本を売ったのにはちゃんと理由があるのです。

iPhone/iPod touchは、むしろ今までPSPやNintendoDSを購入していない人が購入しているようです。となれば、むしろ今までゲームを買っていなかった人がiPhone/iPod touchでのアプリ購買対象なのであり、現在のゲーム購入者数を前提として考えることが間違いであるのではないかと気づくはずです。

この開発コストについては、別の記事でも国内デベロッパートップ達も発言しています。

TGS2009:「僕らはネットに乗り遅れた」 大手ゲームメーカートップが議論 - ITmedia News

乗り遅れた背景には、「パッケージモデルから抜け出せていない」ことがあると鵜之澤社長は指摘する。1ソフトに50人~100人の開発陣が張り付き、2年近くかけて作るという従来のパッケージ制作のスタイルでは、ダウンロード販売の価格ではペイできないという。

実際、iPhoneアプリビジネスで成り立っている企業は「数人のチームで、ファンディングなしでも制作できる規模」だと、SCEの吉田スタジオプレジデントは指摘する。

しかし、上で挙げた例えばGameloft社の「GTレーシング」を見れば、とてもじゃないですが「数名のチームでファンディングなしで制作」したものとはとても思えません。

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※GTRacing:Motor Academy by Gameloft

実際、Gameloft社の別タイトル3DFPS「N.O.V.A.」を開発したチームへのインタビューを見てみると、

本格FPS『N.O.V.A.』誕生秘話から探るゲームロフトのiPhoneアプリ戦略とは? - ファミ通.com

アルノー :  『N.O.V.A.-Near Orbit Vanguard Alliance』のようなビッグプロジェクトの場合は丸一年かかります主体となるチームの規模は20名以上で、そのほかにもサウンドデザイン、CG、ローカリゼーション、デバッグなどに10数名の人間が開発の最初から最後まで関わっています

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※N.O.V.A. by Gameloft

くどくど言う必要もありませんが、「AppStoreの全体の平均単価」からコストを割り出し、その結果数名のチームでファンディングなしでしか制作できないと言うことは、決してないのです。

Gameloftは見込みもなく無謀なことをしているわけではなく、AppStoreがオープンして半年たった頃(2009年初頭)に見極めた上でこの決断をしているわけであり、さらに今年度も同様の体制で年間50本近くのコンテンツを投入を行うということも発表しています。

いうまでもなく、トップセールスに2本も送り込んでいる物書堂のような小規模デベロッパーも存在します。知る限りでは2人体制で開発を行っていると言うことであり見事しかいうほかありませんが、このことはAppStoreには成功の方程式などなく、どれだけそのプラットフォームのユーザーを理解し質の高いコンテンツを送り出すかが問題であると言うことを示しているのではないかと考えます。

まとめとして

上で見たように、AppStoreでは安いアプリだけが売れているわけではなく、多くの方に認められて購入されているアプリには高額なものもあり、むしろ質的には既存のプラットフォームではなかったほど非常に高品質なアプリも多数含まれています。

これらはタッチインターフェースを搭載した新しいプラットフォームに柔軟に対応できているだけなのではなく、中には大辞林のようにタッチインターフェースと言う”きっかけ”をもとに、今までにはなかった新たな価値を「辞書」に与えたデベロッパーもいます。個人的な話ですが、私は大辞林を利用するだけでなく、大辞泉の手書き検索やスクリーンセーバーなどもかなり頻繁に利用しています。単に今までのコンテンツを新たなプラットフォームにポーティングするだけではない丁寧な仕事こそが数多くのユーザーの共感を生み出し、長く愛されるコンテンツにも成りうるのだというごく自然で当たり前なことを強調しておきたいと思います。

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またよしんばアプリ単価が低いとしても、既存のプラットフォームとは異なる利用者層であることを考えると、今までの販売計画そのものを疑ってみる必要もあるでしょう。逆に「これだけのコストしかかけられない」からといって、質的に”手加減されたコンテンツ”は、必ずやユーザーから手厳しい評価を受けることになるでしょう。

特に国内市場においてはゲームが売れなくなってから長く経っており、現在ではミリオンに到達することすら難しい状況のようですが、種々のランキングを見ているとどうやら国内デベロッパーのゲームが売れないのはAppStoreだけにとどまりません。どのプラットフォームでも苦戦を強いられているのが現状であり、プラットフォーマーが国内にあろうが、国外にあろうがそれはほとんど関係が無いのです。

むしろプラットフォーマーが国内に無いから苦戦するのだと言うことは、つまりは自分自身がドメスティックな保護がなければ滅びる存在であると言う事を認めてしまっているのではないでしょうか。さらにいえば、国内プラットフォーマーが頑張っている間にも着実に力をつけてきた海外、特に欧州デベロッパーとの彼我の力の差がそれほどまでに開いてしまったのだと言うことでもあります。

結局、ゲームが売れないのはAppStoreのせいでも海外プラットフォーマーのせいでもなく、時代の変化=ユーザーの変化を敏感に感じ取り、それに柔軟に対応出来ずに既存の成功方程式に囚われているタコ壺マインドにあるのだと言うことを再度強調してこのエントリーを終わりたいと思います。

Twitterでもつぶやきましたが、売れなくなっていることを人のせいにしている間はこの穴から抜け出ることは難しいでしょう。


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6 responses to “iPhoneは儲からない?”

  1. 7000円のゲーム。
    上等じゃないですか。
    面白けりゃ買いますよ。
    ただ、芯のあるメーカーはこんな戯言絶対言いませんけどね。

    ただ、App Storeもまだまだ改善の余地はあると思います。
    iPhone上からTop50までしか見れないとか、日本語検索がおかしい等々。

  2. 自分はここ10年以上コンピュータゲームを買わなかった人間です。
    そんな僕でも,三国志は購入したし,多分FFも購入するでしょう。
    ほしいものがあれば購入するんです。
    ほしいものを見つけて提供するのをメーカがあきらめてはいけないですよね。

  3. 更新お疲れ様です。いつも楽しく読ませてもらっています。もし子供ができたら、他のニュースやメディアではなく、ここ(もしくはMan o’WarさんのTwitterアカウント)を読ませたいとすら思っています。

    この記事も閉口しますが、これに限らずなんでもかんでも「何かの、誰かの」せいにする「大人?」が、あまりに社会に多くて(それも大手のニュースやメディアに登場してしまうので)本当に閉口しますよね。

    現状に下を向いて文句ばかり言うのではなく、現状という枠の中で奮闘した結果、良いものが出来てそれらが売れている、ということに気づけば、本来やるべき事に素直になれるとおもうんですが。。

    それから「共有する」というのが、本当に日本人は下手なきらいがありますよね。携帯キャリアしかり、家電メーカーしかり…。奪おうとする戦略ばかりが横行している気がします。これは、日本が職人気質の国だったからなのでしょうかね。ご意見をお聞きしたいです。

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