モバイルカンファレンス「mobidec 2008」においてグーグルのモバイルビジネスのキーマンが語ったというものです。以前から一部の方が指摘していた、このブログでも何度か説明をした通りの内容となっていますね。
ITmediaによると、
“断片化”したモバイルインターネットの世界で、Googleが目指すものとは (1/2)
世界のGoogleが日本のケータイ向けにリリースするサービスには、どんな狙いがあるのか――11月28日に行われたモバイルカンファレンス 「mobidec 2008」において、グーグルの日本およびアジア太平洋地域 モバイルビジネス統括部長であるジョン・ラーゲリン氏が「モバイルインターネットにおける、Googleのアプローチ」と題した講演を行った。
(中略)
日本ではすでに飽和状態と言われている携帯電話市場だが、世界規模でも成長の鈍化が指摘されている。しかしラーゲリン氏は、データ通信に限ってはまだまだ成長する余地があると見る。
「世界には30億台のケータイがあるが、テレビはその3分の1(10億台)ほど。テレビと比べてみるとケータイのポテンシャルはもっと高くてもいいはずだが、残念ながらそれが生かされていない」(ラーゲリン氏)
その理由としてラーゲリン氏が挙げたのが、携帯電話の環境がバラバラという点だ。キャリアごと、また端末メーカーや対応サービスごとに環境が異なることで、30億台という巨大市場に“フラグメンテーション”(断片化)を引き起こしているというのだ。
「例えば世界には携帯電話の通信事業者が500社近くあるが、各社の環境は技術面でも運用面でもそれぞれ違う。携帯電話向けのOSは10種類くら いある上に、同じOSでも(ミドルウェアやソフトウェアを組み合わせた)実装の仕方もいろいろ。ケータイ向けのサービスを開発するには、この“環境の違い ”を克服しなくてはならず、リソースが分断されてしまう。GoogleはPC向けサービスで成長してきた会社なので、開発部隊にケータイ向けサービスの企画を相談しても『せっかく作っても、キャリアが拒否すればそれまでじゃないか』と、PCではあまり意識することがない“環境の違い”をとても嫌がる (笑)」
(中略)
「PC向けのGoogleサービスもその性質に合わせて、ブラウザ上で動くものとアプリケーションを作って提供するものに分けている。Googleのケータイ向けサービスも、中には専用アプリにしたほうが良い物もある」(ラーゲリン氏)
ラーゲリン氏によると、“今の携帯電話”であればアプリケーション形式で提供したほうが快適に動作するという。というのも、現状のケータイブラウザは標準化されておらず、HTMLの再現性やAjaxへの対応に難があるためだ。
「いずれ、ケータイブラウザがフルHTMLに対応し、標準的なものになれば、もっと多くのGoogleサービスがブラウザベースで動くだろう」(ラーゲリン氏)
という事です。(下線、太字は引用者。以下同じ。)
※ちなみに、GartnerによればPC設置台数も2008年6月に10億台を突破したとなっています。PCやTVが10億台、携帯電話はすでに30億台で、まだまだ延びる余地(PCやTVが設置できなくとも、携帯電話ならば流通する市場がある)があると言われています。そういう意味において、携帯電話(という個人が携帯する常用デバイス)は計り知れない可能性を秘めているのです。
クラウドビジネスを推進する以上、本当はWebサービスで展開したいのがやまやまなのです。しかし、「開発部隊もとても嫌が」ったり、「専用アプリで提供せざるをえない」ものがあるため、非常な不便を感じているのです。
特に引用文中の下線部こそが何度も繰り返しているように大問題でしょう。
AppleのAppStore審査を取り上げるメディアがありますが、現在のケータイキャリアの審査に比べればゆるゆるなのはコンテンツプロバイダーならば誰でも知っています。また通信インフラである電話機である以上、一定のラインを守る必要があるのもまた事実です。現に、比較として出されるAndroidにもアプリケーションのキルスイッチが存在するではありませんか。
Appleが当該コンテンツのビジネスモデルまで問うてきますか?Appleは1ジャンルのアプリについて定数制限を加えていますか?しかし、日本のキャリアは厳然とこれをやっているのです。何様のつもりでしょうか?余計なお世話です。しかもATARIショックを避けるためとかそういう理由があるのなら別のやり方もあるでしょうが、彼らの狙いは、利用者はもちろんコンテンツプロバイダーまでをも囲い込みたいがためなのです。まるで、余計な政治力だけ発揮して業界の成長を阻害している日本の中央官庁と同じです。
日本のコンテンツプロバイダーならば大人しくそれにしたがってきたでしょう。しかしグーグルにとってはそんなビジネスには旨味もないし、スピード感も問題外の話にならない遅さなのです。docomoとは包括提携を結びました(auとも検索窓設置提携を行っていました)が、そんなことを他のキャリアや、各国キャリアといちいちやっているほどヒマではないのです。要するに、グーグルとしてはケータイブラウザが一刻も早くフルHTML対応し、標準的なものになって欲しい(HTML5+CSS3)わけで、(少なくとも現状では)それ以外のものを欲してはいないのです。
※彼らが欲しているのはあくまで統一環境です。もし個別キャリアの要件を聞き入れた上でアプリを作っていけば、統一環境という望みは到底充足しないのは明らかです。
だからこそ、自前で音頭とりをしてまでまずはケータイOSからの標準化(Android)を推し進めたのです。だからこそ無料で提供されるのです。グローバルな市場において圧倒的な競争力を持つ企業だからこその思想ではありますが、既存の狭い世間をさらに細かく仕切ってビジネスをやってきた人間には理解しがたいものでしょう。
そのAndroidについても説明をしてくれています。
Googleが提供するさまざまなクラウドサービスは、もともとPC向けに作られたものだ。それを携帯電話で快適に使うには、先述のようなある仕様に基づいた標準的な環境が必要になる。そのためにGoogleが用意したのが、Androidだ。
Androidには、フルHTMLのコーディングやAjaxに対応したPCと同等のブラウザ(WebKitコードをベースの「Chrome Lite」)があり、共通のアプリケーションスペックを持つ。それらを開発するためのツールは無料で公開されており、ソースも提供される。オープンソース はあるがライセンス形態はApache License 2.0のため、条件を満たせばオープンソース内に追加したオブジェクトソースを公開する必要もない。アプリケーションのリソースが共通のため無駄がなく、 低コストで高い品質の端末を作ることができる。
「オープンソースの精神を尊重するのであれば、追加したオブジェクトソースの一部でも公開してほしい。だが、その判断は開発者に委ねられている。現在の 携帯電話開発は、ハードよりもソフトの開発費が高い。Androidはアプリケーションのリソースが共通のため無駄がなく、低コストで高い品質の端末を作ることができる。またレガシーな要素を使わず、開発者の立場に立って設計されたものだ。日本の開発力は非常に高く、Androidを使って、これまでにないケータイやサービスを開発できるだろう」(ラーゲリン氏)
上述のグーグルラーゲリン氏の話と(当たり前ですが)矛盾してませんね。
グーグルは自社のWebサービスを提供する統一されたプラットフォームだけを望んでいるのです。それさえあれば、広告ネットワークを使うことで膨大な利益が望めるからです。「グーグルフォンではグーグルの広告が強制的に表示されるのではないか?」というのは、広告モデルで食っているマスコミならではの意見です。グーグルはプラットフォームさえ統一されておれば、自社の広告ネットワークとAdWordsを初めとしたコンテンツ連動広告などで十分な勝算があると見ているです。強制的に自社広告表示表示などをしなくとも、自社の広告ネットワークの競争力を高めておくことだけで十分なのです。
その「グーグルフォン」についても、誤解を解こうとしています。
そのG1についてラーゲリン氏は、「『Googleフォン』という呼び方があるが、世の中にGoogleフォンというものは存在しない。AndroidはOpen Handset Alliance(OHA)のメンバーを始めとした皆さんのものだ。確かにGoogleのサービスに最適化されているが、Googleですべてが解決するとは我々も思っていない」とコメントした。
(中略)
「モバイル業界はもう“ケータイだから”と、言い訳はできないところにいる。今こそ、リッチでオープンなインターネットを携帯電話に持ち込むべきだ」(ラーゲリン氏)
大事なことなので繰り返します。「グーグルフォンというものは存在しない」のです。ご参考)グーグルフォン の検索結果 約 1,040,000 件
マスコミ各社様やライター様は、よくこの発言を確認してください。そんなもので消費者を誘導しようとしてもまったくのムダです。グーグルはケータイOS(というよりもブラウザ)を統一しましたが、その上で各国キャリアがどんな機能を搭載するのかはまったく興味がないのです。
※以前も書いたように、このWeb上の標準的な統一プラットフォーム構築と言う観点においては、GoogleとAppleはHTMLレンダリングエンジン「WebKit」を擁立する同じ立場ですらあります。これはGoogleのシュミットCEOがAppleの取締役を兼任しているという関係以上に、Web上でのより良い表現のためのプラットフォーム構築が必要であるというビジョンが共通していることから発生しているのではないかと思われます。
ケータイにおいてはiPhoneのMobileSafriとAndroidのChrome Lite、AppleがMacやWindowsに配布するSafari、Googleが本気で配布しようとしているChromeも、すべてHTMLレンダリングエンジンはWebKitです。このWebKitは、恐らく彼らが次世代のWeb標準と目しているHTML5とCSS3搭載を今現在も積極的に進めている団体であります。しかも先日、Symbian Foundationが「統一プラットフォームとしてNokiaのS60をベースにする」と発表していましたが、このS60もWebKit搭載です。
つまり、世界レベルのプレーヤー達がいまやろうとしていることは、「WebKitスマートフォン」の支配力を高めることによりケータイWebに(HTML5+CSS3という)統一プラットフォームを構築することだと言い換えてもいいくらいです。それに付随して相互に影響しあう関係であるPCプラットフォームにおいても同様に、WebKit支配力を強めようとしています。その目的においてはApple、Google、それにケータイにおいてはSymbianまでもが同じベクトルであると言うことです。
もう少し噛み砕けば、よく競争相手として話題になるのは、あくまで「ネイティブアプリ」と呼ばれる「Webアプリ」ではない部分ですが、このネイティブアプリについてはGoogleはほとんど興味がなさそうです。記事にもありますが、基本はクラウドサービスのクライアントが欲しいのであって、ネイティブアプリを出すのはWebでは表現不可能なものや、セキュリティ確保が必要なものに限定されるからです。また、仮にAndroid採用携帯が普及すればバイナリレベルでは統一されることになります。ただ、ネイティブアプリについては各国キャリアの判断が入る可能性を残しているようであり、そういう意味ではネイティブアプリに対して、Googleはそれほど本気ではないのではないか?またはどのキャリアも間違いなく採用するサービス(例えばストリートビューやGoogleEarth)しか展開しないのではないか?とも思われます。そう考えるとAndroid(G1)のアプリ格納ストレージサイズがわずか128MBであったのも頷けます。
と同時にネイティブアプリ開発者にとっては、Androidはより厳しい環境となることも想像されます。例えばiPhoneにおいては、格納ストレージは8GBや16GBであり、それよりも先にホーム画面設置上限(4*4*9画面+4個)の方が問題になっています。現在大量に開発(1万本を突破しています)され日々ダウンロードされるアプリは、今やホーム画面の制約上消されていくことの方が可能性が高いのです。それがAndroidの場合は、128MBの格納ストレージを他アプリやGoogle提供アプリと取り合うことになると言うことですから。G1の後に登場するAndroid端末がそれ以上のストレージを搭載しても、”アプリ稼動プラットフォームとしては意味がない”ことも十分理解いただけるのではないでしょうか。
グーグルが支配するという陰謀論者がいますが、グーグルはOS支配(による販売=直接収益確保)など現段階では望んでいないでしょう。配布するにはコストも掛かるし、サポートコストもバカになりません。マイクロソフトの成功も失敗も彼らは見ているのです。もしやるとすれば、それはブラウザ(WebKit)という共通プラットフォーム上でWebOSとしてやるのです。そのためのブラウザ統一であり、ケータイの場合は(自ら持ち出しでやる以上)OSから統一してしまおうというのがAndroidなのです。それでも「WebOSで支配するじゃないか」と言う人もいるでしょう。それは、たまたま標準搭載されるWebサービスがグーグルのものであるだけというのが正解でしょう。Webである以上、その上ではオープンで公平な競争が保たれているのです。
先日Chromeの積極配布に関するニュース(Google、「Chrome」をPCプリインストールも含め拡販へ)がありましたが、なぜわざわざ費用を掛けてまでマーケティングやプロモーションを行うのかが、ここまでグーグル自ら懇切丁寧に解説されれば、誰しもハッキリとわかるでしょう。絵文字を統一(Google、絵文字を標準化へ)するのも、Web上でのコミュニケーションを活性化するための一策でしかないのです。
クラウドサービスを展開し、その上での広告ネットワークで勝負するのが現段階での彼らの方針であり、そのためにはなるべく多くの端末(PC、携帯、その他)がネットワークに接続され、統一されたブラウザ上で閲覧をすることこそが大切なのです。統一されればされるほど彼らの広告ネットワークの競争力が発揮されやすいからです。またクラウドが注目され、各種サービスやデータがクラウドに移行すれば、彼らの真骨頂であるクラウドサービス(Google App Engineなど)がこれまた莫大な利益を生み出すでしょう。
※”現段階”という言葉を何度も使ったのは、オンサイト実働を伴うコンシューマーサービスを必要とする間は、彼らグーグルはそういうサポートを必要とするものには手を出さないだろうと言う意味です。コストを食うばかりでおいしくもありません。もし仮にクラウド上でリモートサポートが人的リソース以外のもの(自動応答の発展系など)で完結出来るようになった時には、進出する可能性は大いにあるでしょう。
このエントリーにご興味をもたれた方は、「今後のWebパワーバランス」や「「Google Chrome」リリースで考える今後のWeb開発のあり方」などもあわせてお読みいただければと思います。



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