
すでに各所で取り上げられていますが、iPhone SDKの日本語翻訳版が公開されています。
なかでも、「iPhoneヒューマンインターフェイスガイドライン」は必読のドキュメントです。iPhoneアプリ開発者以外でも、UI(ヒューマンインターフェース)デザインを生業とされている方や、少しでも関心のある方は一読をお勧めします。
またこのエントリーでは、このガイドラインを通して見えてくるプラットフォーム構築の大切さについても考えてみたいと思います。
iPhone SDKは、利用するには無料の登録が必要です。特に詳細なデータ入力は必要としませんのでこの機会に登録してしまいましょう。
「iPhoneヒューマンインターフェイスガイドライン」は3章に分かれますが、特に、「パート I: iPhoneソフトウェア製品の計画」の初めに置かれている、「iPhone OSプラットフォーム:豊かな可能性」についての部分の整理の仕方が見事です。
まず、iPhoneプラットフォームを既存のシステムとの相違点から明らかにし(画面サイズ、1画面ずつ、1つのアプリのみ、最小限のヘルプ)、その上でその特徴を活かすためのアプリケーションスタイルを定義していきます。そのスタイルを検討する際のポイントは、アプリを使用する動機、どのようなユーザー体験をさせるか?、アプリの目的あるいは焦点は?、アプリの情報をどのように表示すべきか?という4点を挙げています。
その上で、このガイドラインでは「生産性型(メールなど)」、「ユーティリティ型(お天気情報など)」、「没入型(ゲームや、ごく単純な情報提示を行うもの=水準器など)」の3つのスタイルに分け、それぞれのアプリケーションの典型とそのための画面展開、設定機能の提供方法などを整理します。
さらに、既存のアプリケーションが存在する場合のiPhoneプラットフォームへの移植方法の具体例までもがまとめられています。ここでは、PCでは3ペインスタイルが多いメールアプリと、写真管理アプリ(iPhoto)を例にして、iPhoneでの表現例を示します。ここで特徴的なのは既存のアプリケーションの機能すべてではなく、そのアプリが果たすべき中心的な機能を洗い出し、その機能をいかに端的に再構成すべきかということです。その整理方法を画面サンプルを挙げながら説明します。
iPhoneの標準ホーム画面に並んでいる「メール」アプリや、「写真」アプリが、単純な思いつきや「ふつー要るでしょ?」的な発想で作られたものでなく、機能的にも、またアプリケーションの規程を示す意味でも選択され搭載されていることがわかります。
ここまで見てきたように、iPhone SDK、特に「iPhoneヒューマンインターフェイスガイドライン」は、iPhoneに限らないユーザーインターフェースを構築する際に検討しなければならない要素が、ふんだんに盛り込まれていることがわかります。
また、iPhoneというプラットフォームのフォームファクタ(ハーフVGAであったり、マルチタッチであったり、ソフトウェアキーボードなどのハードウェア構成要素)が、単純に調達のし易さ(=低コスト)や最先端であるから選ばれたのではなく、携帯端末上でUIの実現をするという観点で、十分に検討を重ねた上でそれが必要だから選択されたことがわかってきます。さらに、選択の前提で検討されたUIと、その厳選した部品とが完全にマッチするからこそ使っていて気持ちいいほどの見事なUIデザインがなされていることに気づくのです。さらにそのフォームファクタは、今まで見てきたように単に「1四半期だけ生き残ればよい」という狭い視点で検討されたものでなく、エコシステムを乗せるプラットフォーム構築を前提に慎重に検討されていることも明白です。だからこそ初代iPhone(GSM機)とiPhone 3Gが何の変更もなく共通プラットフォームとして機能しているのですね。
現在、特に日本市場では全面液晶、マルチタッチだけを売りにしたようなスマートフォンが続々と販売開始アナウンスされていますが、試すまでもなくそれらの検討が浅いものであることが想像されます。自分でマルチタッチインターフェースのアプリケーションをデザインしてみるとすぐにわかりますが、iPhoneの実現している使っていて心地よいレベルのUIは、かんたんに実現できるものではないということです。単純に物理キーボードをタッチパネルに置き換えるというのはUIデザインや、引いてはプラットフォーム構築の重要性を何も理解していないということです。
今までの四半期単位の商品入れ替えという軽薄な売り方ではそれも通用したでしょう。しかしすでに影響が出ているように、携帯電話の販売奨励金廃止に伴う販売方法の変更により、コンシューマーが端末価格の上昇を身をもって感じています。その結果、携帯電話の購入に対して慎重にならざるを得ないのです。
新機能は3日も使えば薄れますが、使い心地の感動はやすやすと薄れません。
ハードの新規性ばかりを追い求めてきた国内キャリアとメーカーは、このガイドライン(に現れている表面的な事柄)を研究することにより、「Appleが長年追い求めてきているインターフェースデザイン」の概略を知ることができるでしょう。しかしそれは単に検討の結果に過ぎないのです。それを検討する段階で議論・検討されたアイデア、取捨選択を行う元となったポリシーなど、膨大な時間を掛けて構築されたノウハウこそが彼我の差を大きくしつつあるものであることに気づけば、今からそれを追いかけることの大変さも理解できるのではないかと思われます。
かつ大事な点は、エコシステム構築がプラットフォーム生き残りのキーポイントになっている以上、そのポリシーがアプリケーションデベロッパーにまで浸透させられるか否か(つまりはエコシステム構築の可否)に掛かっています。先のエントリー(続編:iPhone1千万台突破の意味(今後のゲームプラットフォームとは))で取り上げた任天堂ですら、「DSで売れているソフトは任天堂だけだ」と言われている様に、そこで苦しんでいる様が見て取れます。
ましてや、今までソフトウェアを軽視してきた携帯メーカー(またはキャリア)が今からそれを構築できるかという点については、正直、相当厳しい戦いであることは予想できます。
※それ以前の、「売ってしまえば後は知らない」状態の能天気な態度や、「型遅れだから早く買い換えてください」的な態度では、生き残ることすら厳しいでしょう。



UIってユーザーインターフェイスですよね?
kazubouさん、こんにちは。
>UIってユーザーインターフェイスですよね?
はい、もちろんそうです。
冒頭のカッコ書きのことをおっしゃっているのではないかと思うのですが、
(Apple社の書き分けの意図とは別として)この文章では
このブログの読み手(受け取り手)に向けて発信しているため、
ユーザー-、まはた略語UIで説明しています。
ただし、その人の所属するカテゴリーによりヒューマン-というので
初出部分でUI(ヒューマン-)と書いています。
以上、ご確認のほどよろしくお願いします。
はじめまして。いつも楽しく拝見させて頂いております。
まったくを持って同感です。背筋がゾクゾクしました。
国内メーカーは続々とタッチパネルを送り出し、
液晶の大きさを競い合い、フチをシルバーにしてみたり、
まるでiPhoneそのもの的デザインが大量発生しております。
この流れはどうも軽すぎて笑えます。
国内メーカーが得意の「流行り」思考でiPhoneを捉えて、
”タッチパネルなら売れるのだろう”
”加速度センサーを付ければカッコよく見えるのだろう”と、
ごく薄~い表面的な真似をしているに過ぎない気がします。
iPhoneのタッチパネルや加速度センサーは当然ウリでもあるのですが、
それはただの付録に過ぎず、仰るように、奥深いAppleの包括的なソフトウェア・システム・サービス・戦略などに、国内メーカーが”もう太刀打ちできません”と白旗を上げているのでは?とさえ感じてしまします。
タッチパネルを使った事ない方が、国内新機種を選ぶ時によく言っています。
「すぐに飽きそう」と・・・。国産は”タッチパネルを出しました。さぁ使ってください。”
それだけでしかないからですよね。
モノづくり大国日本の悪いところが露呈してしまっている感が否めません。
国産はトップクラスの技術だけではなく、知恵を膨らませてくれることを期待しています。
Yuckeyさん、おはようございます。
すでに2008秋冬モデルが出揃い、いろいろな反応が掲示板などにも出始めていますね。
私には各社がタッチパネル搭載機を出せば出すほど、iPhoneのタッチパネルに代表される
UIの優位性が今後さらに際立ってくるだろうとしか思えません。
各社新機種が四半期単位で浮沈する中、iPhoneだけが、なぜモデル変更もなく
長期的に支持されるかを追えばマスコミにもそれが少しは理解できるはずですし、
コンシューマーも徐々に理解するでしょうね。
最近特に思うのですが、日本は、書かれているようにモノづくり大国のダメな点が
見えて仕方がないですね。技術というものは所詮利用されなければ意味がなく、
それが最先端であればあるほど捨てられた際の空虚さが漂ってくるようです。
本来高度な技術を、”目新しさ”でしかアピールできない応用力、構想力、
構築力の低さが致命的なほど低いということなんでしょうか。
Apple/iPhoneは決して最先端技術採用の製品ではないですが、
この数年間で必要なものをしっかり見極めたうえで(デザイン・ソフトウェア含めて)
丁寧に作りこんでいるようです。