先日お伝えした「iPhoneSafariにアプリケーションキャッシュが実装されている件」に対して、fladdict様より「iPhone,Flash,Androidのパワーバランスに変化か」というエントリーでピンバックをいただいています。
大変興味深く読ませていただいたのですが、(当たり前のことですが)若干認識が異なる点等もありますので、自分で今後検証するためにも現時点において考えている「今後のWebパワーバランス」について、まとめておきたいと思います。
※なお、fladdict様が書かれている「次のiPhone SDK2.2のsafariから、」という記述は誤りで、HTML5 Application CacheはiPhone OS 2.1ですでに搭載済みです。(原因は私のエントリーの記述がまずいためではないかと思われます。)
下記では、記述内容が通常のブログと異なるため、文体を変えております。
また、知見・認識の甘さは自覚しております。ご意見ご指摘等頂ければ幸いです。
10月8日16時追記:眠い中書いてしまったためか恥ずかしい誤記がありましたので、その修正と若干の補足を行いました。
ケータイカテゴリーにおけるWebKit勢力
まず、今後を占う重要なカテゴリーである”ケータイ”ジャンルの流れを抑えておく。なぜケータイなのか?は議論を待たないが、NetBookの流れを見るまでもなく、フルサイズのPCは全世界規模で考えた場合に今後普及していくプラットフォーム足り得ないからである。その原因はインド・中国・その他諸国市場の巨大さと未整備な社会インフラにある。
これらの市場ではハイエンドなPCは求められておらず、かつ安定した大出力の電源確保も困難である。その市場特性を考慮すれば、UMPCですら電源確保の面において一歩不利にならざるを得ず、その両方の利点を兼ね備えるスマートフォンが大きく注目されることになってくる。
それを見越したGoogleは、Androidを無償提供してでも広告プラットフォームの確保に乗り出しているし、それとは別でIntelもMicrosoftもかなりな持ち出しをしながらもNetBookの流れを作らざるを得ない。EeePCの原価構成を考えるだけでも、その本気度は明らかである。
※つまりAndroidとiPhoneは当面の敵ではなく、むしろUMPCこそが対抗勢力なのである。AppleとGoogleという言葉に置き換えてみれば、AppleのiPhoneは既存のケータイやUMPCと競合になるが、広告事業者のGoogleはAndroidもiPhoneもUMPCも(貧弱ではあるが)既存のケータイさえも広告プラットフォームのひとつに過ぎない。
そして、そのスマートフォンカテゴリーにおいて、いまやWebKitは圧倒的勢力となってしまっている。巨人NokiaはすでにS60にWebKitを採用済みであり、Open Handset Allianceには携帯世界シェア5強のうちソニー・エリクソンを除く3社が加盟している。また、LiMOもWebKitを視野に入れた規格策定を行っている。
この流れがあっての、先の「T-Mobile G1」発表である。HTMLレンダリングエンジンがiPhoneと同じであるということ以外に、もうひとつ画面サイズがiPhoneと同一であるという大きなポイントがある。マルチタッチこそ搭載しなかったものの、タッチインターフェースと同一画素数、とどめとしてWebKitの採用によりケータイカテゴリーにおける今後の構築スキームは固まってしまったに等しい。
メディアハンドリング
Flashの大きなアドバンテージといえば、異種プラットフォーム上での互換性保障と、リッチなメディア(映像・音声)の取り扱いにあると思われる。
しかし、事実上WebKitが中心になり実装作業を進めている(当然ながらそこには上記巨大プレイヤー達の後押しがある)HTML5+CSS3によるメディアハンドリングとアニメーション機能の提供は、確実にFlashが独占してきた市場を脅かすものである。またもう一方の(異種プラットフォーム上の互換性保障という)アドバンテージは、すでに書いたようにWebKitで統一されるためFlashの層で新たにカバーリングする必要性は薄くなる。むしろタッチインターフェースを共通化する(JavaScriptなどの)ライブラリ層でまかなえる可能性がある。
ここでHTML5+CSS3によるメディアハンドリング性能が、現状のFlashのレベルと比して十分ではない、比較対象にはならないというのは間違いであると見ている。理由は、上で書いたように今後のプラットフォームの中心が貧弱なCPUパワーの携帯機器に移るからである。数年のスパンにおいて(社会インフラという意味では十年スパンで)、電源問題がカンタンに解決できるわけではなく、Flashの提供する重量級のメディアファイルハンドリング能力はオーバースペックなのである。
つまり、ここ数年のスマートフォンもしくはUMPCに期待されるメディアファイルの取り扱いは、HTML5+CSS3(+いずれかの動画再生機能)で充分まかなえるということに他ならない。逆に言えば、HTML5やCSS3とは、今後主戦場となるスマートフォンまたはUMPCで充分にハンドリング可能な規定を詰めていると言い換えることが出来るのではないかとも思えてくる。
HTML5とCSS3の実現するもの
これまでに明らかになった機能群として、
- ローカルデータベース(Client-side Database Storage)
- アプリケーションキャッシュ(アプリのオフライン稼動=ネット・電波の届かないエリアのカバレッジ)
- CSSアニメーション+SVG
- メディアハンドリング
- JavaScriptエンジンの驚異的な速度アップ
がある。
これらの組み合わせが今後のケータイプラットフォームのスタンダードであり、これ以外は付加要素として存在してもスタンダード要素への組み入れは行われないと見ている。当然ながらビジネス用途において上記ではカバーできないヘビーなビジネス用途があるが、その領域に対するカバーリング手段として、AppleはObjective-C+Cocoaを掲げ、Androidは独自Java+AndroidSDKを提供している。
ブラウザでプラグイン稼動しないFlashは、(プラットフォームをAppleないしはAndroidが握る以上)それほど自由な振る舞いは行えず、単なるFlashファイルプレイヤーに過ぎなくなる可能性が高い。Windowsなどの自由なOSに比べ、スマートフォンまたはUMPCの貧弱なメモリ空間とCPUパワー上に二重のレイヤーを築き上げることの不健康さは想像するに余りある。ましてや電源確保こそが至上命題であるのに、何をかいわんやである。
結局、現状の貧弱な電源とそれに見合うCPUパワーで構築するしかないという問題に対する現実的な解答が、HTML5+CSS3であるとも言える。
今後のWebパワーバランス
すでにPC上のアプリケーション稼動プラットフォームは、OSのデスクトップからクラウドコンピュータに移りつつあり、それを閲覧し一時的に編集・保管する領域として急速にブラウザが整備されている。上で見てきたようにケータイプラットフォームにおいても、(一部のヘビーデューティなアプリを除き)スタンダードWebで構築するというのが大きな要求となりつつある。
世界的な規模でハイパワーな端末をくまなく配布することは事実上ムリであり、その代替策としてクラウドコンピュータ+ビューワという組み合わせを推し進めるというのが、Google(またはAmazonなどクラウドサービス事業者)やIntelの目指す方向であると見るのは、共通認識になりつつあると思われる。その意味において、PC/Macとケータイは限りなく近づかざるを得ない。
MicrosoftとAdobeがハイパワーで電源食いのRIAで勢力争いを行おうとしているのは、発熱量管理(TDP)に苦心惨憺してきたIntelからすれば笑止である。さらに広告管理事業者のGoogleからすれば、これ以上(広告ネットワークに組み入れにくい)独自規格を構築されるのは、すでに商行為を邪魔するもの以外の何者でもない。同様に、世界規模の広告ネットワーク組み入れの障壁となっている日本のケータイもほぼ同じ扱いにならざるを得ないだろう。
上で見たように、すでにケータイプラットフォームは百万オーダーの機器販売とその上での細かいビジネスで展開する時代を終え、千万~億オーダーの巨大なグローバルビジネスの波に襲われようとしている。
また、PCプラットフォームもそのケータイプラットフォームと同じ規格で整備していこうという強力な意思が、Chromeリリースには感じられる。つまり、GoogleのChromeやAndroidは、広告ネットワーク事業者が自ら示した”広告表示クライアントのスタンダード”であり、また巨大市場への配布に耐えうるプラットフォームの姿であるとも言える。
AndroidでブラウザプラグインなFlash搭載が見送られた意味も、これで読み解ける気がする。またChromeに採用されているのがWebKitであり、さらにHTML5 Application CacheがPC/Mac用Safariを差し置いてiPhone OS(MobileSafari)に搭載された(しかもwebkit.orgでの公表がなされていない)意味も同様ではないかというのが私の考えるストーリーである。
結論として、ネイティブアプリは各プラットフォーム事業者の取り分であり、差別化が図られる。ネイティブアプリはプラットフォームを越えることはなく、一定の影響範囲にとどまってしまう。しかしながら広告ネットワークを流すためのWebは、WebKitを中心に実装されるHTML5+CSS3で統一され、プラットフォームを跨いで共通利用されるという姿が浮かんでくる。
Adobeや、(広告ネットワーク事業者ではなく、RIAツールやOS提供者としての)Microsoftが、この構成の中でどの位置を占めるのかはまだ見えてこないが、いずれにしろ大変な変革期に入っていることは間違いない。
もっとも当ブログとしては、広告とは違う独自の垂直統合で勝負を仕掛けるAppleが、生き残れるのかどうかの方に興味がある。
※追記:先の記事でも引用しているように、HTML5への準拠という視点ではFirefoxが先行して行っていることはもちろん承知しています。ただ、それが標準プラットフォームとしてWebアプリで利用可能な状態にあるという点が、今までの状況と決定的に異なると考えています。
すでにiPhoneではiPhone対応サイトすべてにおいて、また仮にMobileChromeでも同様のサポートが行われているとすれば、iPhoneやAndroid端末においては、(ブラウザを限定した実証的な位置づけを超えた)プラットフォーム全体として問題なく利用可能な標準機能として提供されるということです。



時期的に2.2と決め付けて読み間違えてしまったようです。恥ずかしい。
いちおう2.1, 2.2の違いで、エントリの趣旨に影響がないのが救いですが。
僕はFlashが携帯に切り込むにはどうすべきなのかの視点で書いてるので、ちょうど逆からの視点は面白いです。
このエントリにあるように、Apple, GoogleにとってFlashを採用するメリットは、後方互換的な意味しかないので、両者がwebkitを推し進めて、Flashを廃する方向に動くというのはほぼ確実だと思います。
ここら辺ぼくも色々思うところがあるので、またちょっと考えをまとめてみようと思います。
fladict様、こんにちは。
コメントありがとうございます。
今までぼんやりとこの変化を感じてきて、何度か整理しなければと
思いながらもそれができていませんでした。今回言語化できたのは、
fladict様の記事を読んだことがきっかけです。
もちろん、視点の違いはあるべきで、それぞれの立場で
考えることをぶつけ合うことで様々な分析ができると考えています。
エントリー楽しみにしております。
[...] <追記> iPhone 3G Wiki blog様に、ローカルキャッシュは2.1の段階で実装されてるとの指摘をいただきました。これは僕がローカルキャッシュのエントリの時期的にSDK2.2と間違えたミスです [...]